「かなわない」には、人間の嫌なところがこれでもかと書かれていた。人が普段もろに見せないような部分がありのままになっている。読んでいる途中も、読み終わった後も、ずっと心がざわざわしていた。著者のネガティブな面がこの本には多く書かれていたからだ。育児の辛さ、家庭を維持する責任の重さ、夫への苛立ち、母親への恨み、仕事の悩み、夫でない男性への恋心。色々な思いがぐるぐると混ざり合う日々。水の中で必死に息継ぎをしようとするような、もがきが伝わるような文章だ。
それでも、とにかく著者の身勝手が目立っていた。周囲の人間が著者に振り回されすぎているように思える。母親としても妻としても酷い言動があった。人格も疑ってしまうほどだ。でも、たかが他人の日記なのに、どうしてそこまで強く嫌悪感を抱くのか?考えてみたが、多分それは自分の中に似ている部分がたくさんあるからだ。自分も人を裏切ったり、傷つけたり、陰で恨んだりしている。綺麗なふりはできない。だから、著者を批判する権利は私にはない。自分にすら嘘をついていたいような汚い部分を、この人は全世界に向けて晒しているのだ。
夫であるECDとの馴れ初めについては触れられていなかったが、親に結婚を認めさせるために子供を作ったと書いてあった。その時点では、当然恋愛感情があって、夫のことが大好きだったのだろう。そこまで好きだった人をどうして嫌いになったのだろうか。一体何がきっかけだったんだろうか。
ちなみに表紙の油絵は今井麗さんの作品。食パンは淡々と続いていく日常の象徴だろうか。とても魅力的な絵だ。